平林金属株式会社

わんぱく夢商店

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そんなある日

「こんばんは」
いつものように、父ちゃんとお風呂に入って夕ごはんを食べていると、玄関で声がする。
「ハーイ」
母ちゃんは、おはしを置くと玄関へでていった。
どうやら母ちゃんは、しきりにあやまっているようだ。
父ちゃんはビールのコップを置くと、玄関へ出て行った。

ぼくは何かいやな予感がした。
あんのじょう
「鉄!」
ズカズカともどってくると

「鉄、明日から、缶拾いはやめろ! わかったな」

それだけ言うと、父ちゃんは飲みかけのビールをクイッと飲みほして、さっさと二階へ上がってしまった。
母ちゃんが元気のない声で
「鉄也、バクちゃんのお父さんとお母さんが来られてね、缶拾いのようなみっともないことはやめさせて下さいってこられたのよ。
缶拾いのどこが悪いって父ちゃんが言ったら……」
母ちゃんはそこまで言うと、流しの方へ立った。

肩がふるえている。
ぼくは泣いていると思った。
「母ちゃん、それからどうなったの」
ぼくは聞いた。
「バクちゃんのお父さんは、会社の重役さんでしょ。それで……それでね……ごめんね、鉄也」
ぼくはわかった。
全部聞かなくても、父ちゃんと母ちゃんのくやしい思いが、ひしひしと伝わってきた。
(缶拾いがなぜ悪い、なんで重役が立派な仕事なんだ。なんでスクラップ屋が……)
ぼくも、涙がポロポロでるのをおさえられなかった。
その夜はなかなか寝付かれなかった。

次の日、バクちゃんはこなかった。

ケンちゃんに昨夜のことを話すと
「バクちゃん、あんなにいきいきと働いていたのに。きっと今頃気になっているだろうな……」
と言った。
ぼくも、そう思っていた。
でも、ぼく達の夢の実現まであと少しなんだから、と二人でがんばることにした。
今では缶がたまったからと、わざわざ電話をくれる所もふえて、二人では大いそがしだった。
父ちゃんはあの夜いらい、ぼくの顔を見ようとせず、口数もきょくたんにへっていった。
お風呂も別々だ。
でもケンちゃんと二人で拾った缶は、相変わらず、だまって買ってくれた。

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夏休みもあと十日足らずになった頃。

「ケンちゃんとぼくは、いつものようにリヤカーをひいて、昨日電話をくれたお店に向かっていた。
その時
「鉄ちゃーん、ケンちゃーん!」

「バクちゃん!」

「鉄ちゃん、ケンちゃん、ごめん」
「バクちゃん元気だったかい。父さんにしかられたんだろ」
「うん、でもぼく毎晩ストライキをしたんだ」
「ストライキ?」
「うん、缶拾いをゆるしてくれるまで、晩ごはんを食べなかったんだ」
「えーっ!」

ぼくとケンちゃんは大声をあげた。
バクちゃんが食べないなんて考えられないのに、自分からいらないというなんて全然信じられなかった。
「それでねぼくの父さん、おどろいたみたい、そんなにお前が夢中になれることなのかって。
ぼくは話したんだ。ぼくらの夢を、三人の計画していることを。
自分達の手でかせいだお金で、来年、六年生の夏休みに、北海道一周自転車旅行に行く計画をたてていることを!」

「父さん、反対した?」

「ううん、おどろいていたよ。博志も大きくなったもんだ。二年がかりの計画か、実現しろよって。
母さんなんか、今からもう北海道のおばさんに、あぶなくないかとか、来年行くからよろしくとか、電話しまくってるよ」
「ふうん」
「ごめんな、夢のことしゃべってしまって。でもまた今日から仲問に入れてくれよな。ぼく休んでいた分、たくさん働くからさ」
バクちゃんは、うれしそうにリヤカーのハンドルを持った。

「でもバクちゃん、晩ごはん食べてなかったのに大丈夫?」
ぼくは、あまり体型のかわってないバクちゃんに聞いた。
「平気、大丈夫さ。だって食べていないのは父さんの前だけで、
父さんが風呂に入ったら母さんがちゃんと部屋に食べ物をはこんでくれていたんだもん」
「えーっ、ずるいストライキだな。でもバクちゃんらしいや」
「アハハハハ」
ぼくら三人は、夏の太陽にまけないくらい大きな夢に向かって、また歩き始めた。

その日の夕方、久しぶりに三人そろって父ちゃんに缶を買ってもらった。

父ちゃんは缶を計りながら、
「今日は特別価格で買ってやらあ」
と言った。
そして奥から小さな鉄の板を渡してくれた。

『わんぱく夢商店』

鉄のかんばんにはそうほられていた。
ぼくとケンちゃん、それにバクちゃんは、かんばんを工場の門の左側にかけた。
右には『林スクラップ工場』
左には『わんぱく夢商店』
どちらも、よく似合っていた。
夜空には、たくさんの星達がチカチカと輝き、まるで応えんしてくれているかのようだった。

岡﨑 こま子

所属:岡山県詩人協会、いちばんぼし童話の会、とっくんこ

平林金属に平成3年入社、16年退社。
文章歴は長く、日本児童文芸家協会にも所属。
「岡山市民の童話賞」入選二回に次いで、「リサイクル」をテーマにした本作品『わんぱく夢商店』で第九回岡山市民の童話賞最優秀賞を獲得しました。
現社長平林実の幼い頃の思い出を聞いたことがきっかけで、「リサイクルの必要性はみんな分かっているけれど、現実の社会では今なお偏見が残っているように思う。そんなジレンマを乗り越え、未来に向かってたくましく成長していく子どもたちの姿を描きたい」というのが創作の動機になったそうです。

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